無音の光
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埃で濁った空気の中、急な階段を上がりきる。廊下の突き当たり、古びた扉の向こうが、彼女の仕事場だった。
「……お邪魔します」
誰もいないとわかっていたが、思わず呟いた。今でもカーテンの揺れる窓際で、彼女がカンバスに向かっているような気がした。
閑寂な室内へ入る。背もたれのない丸椅子と、一人で使うには大きすぎる四角い机以外は何も残されていなかった。南向きの窓から、午後の気怠げな陽光が柔らかく射し込む。
――彼女は一体、
夢を、決して諦めない人だった。爪を噛みながら――考え込むときの彼女の癖だった――窓際で蹲る彼女の姿が思い浮かんだ。
――幸せだったのだろうか……。
ふと視線を落とすと、机の下に何かを認めた。体を屈めて手を伸ばす。薄汚れた一枚の絵だった。
私はその絵を見据えた。そこに描かれた少女に、私の眼差しは釘付けになった。先程の問いは無意味であったと、悟った。
――絵の中の少女は、微笑っていた。
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